古来から高い技術を持つ越前の紙漉き職人は、時代に合わせて
柔軟に適応しながら多くの技法を生み出しています。
漉き掛け
汲み込みを行う「打雲(うちぐも)」を原点とし、あらかじめ漉いた地紙の上に別途用意した「華」と呼ばれる紙料を汲み込んだり、地紙を覆うように掛け入れる技法です。
楮・三椏などの「トジ華」(ネリと明礬(みょうばん)で凝固させて花弁のようにしたもの)を漉き掛けた大礼紙・オボナイ紙が代表格です。
華の素材は、楮・三椏・ユガラ・杉皮・レーヨン・そば殻・金銀箔・雲母など多種多様です。
打雲紙 大礼紙 オボナイ紙 雲華紙など
漉き入れ
「華」を紙料の中に混ぜ込んで漉く方法と、地紙に並べ載せる方法があります。
華模様は「漉き掛け」では紙のおもて側に現れ、混ぜ込みの場合は表裏どちらにも模様が現れます。
華の素材は「漉き掛け」と同様ですが、並べ載せたりする場合には草花なども加わります。
落水・水切り
水圧を利用して湿紙に模様を施す技法です。
江戸中期に考案された「水玉」を原点とします。水玉は、藁(わら)を束ねたもので水滴を振り落として作ります。
近代化するとジョウロや穴を開けたパイプなどを用いて、雨を降らせる様に細かく水滴を落とす「落水紙」や「天上紙」、渦巻き状に模様を付けた「孔雀紙」、直線状の「すだれ紙」など多くのパターンが考案されました。
針金・金属板などで作った型を置き、図柄を演出する事もできます。
水玉紙 落水紙 天上紙 孔雀紙すだれ紙など
漉き込み・漉き出し
模様を彫り込んだ型紙を簀(す)や紗(しゃ)に貼って漉いた上掛け紙を、地紙に重ねて漉き合わせる技法です。
この技法は越前では江戸時代に完成していました。
近来では、複雑な模様には型紙を用いず紗に直接写真製版する方法も取られています。
上掛け紙の模様部分の紙料が無く、地紙の色がデザインになるものを「漉き込み」と呼びます。逆に、上掛け紙の色そのものがデザインとなり、地紙の上に模様部分が浮き出るものを「漉き出し」と呼びます。
透かし入れ
漉き簀(す)や紗(しゃ)に文字や模様の型紙を貼り付け、または縫い付けて紙を漉くことで「透かし」を入れる技法です。
型紙があった部分は紙が薄くなり、光にかざすと文字や模様が白く浮かび上がります。
偽造防止に役立つため、株券・賞状・免状・証書類に重用されています。
株券 証券 証書紙など
落とし掛け
湿紙の上に、別に染めた紙料を落として模様を作る技法です。
「飛雲(とびぐも)」は紙料を杓子(しゃくし)で落として雲を描きます。
近代になって考案された、ネリと混合した紙料を油差しなどの容器に入れ、絞り出して模様を描く「飛竜(ひりゅう)」も落とし掛けの部類に含まれます。
飛雲紙 飛竜紙
流し込み
模様をかたどった金属製の型枠の中に、別に染めた紙料を流し込んで模様を作る技法です。
型枠は地紙の上に置く場合と、簀(す)または紗(しゃ)の上に置く場合とがあります。
簀または紗の上に置いた場合は、別に漉いた地紙に重ねて漉き合わせます。
紙料を地紙の全面または一部に流し込む場合もあり、これは「漉き掛け」と似ていますが、漉き掛けで用いる「華」とは異なり、繊維が分散した紙料そのものなので流し込んで出来上がった紙の表情は、まだら雲に似た光沢があり雲肌とも呼ばれます。
ひっかけ
模様の輪郭線を繊維で現す技法です。
模様の輪郭をかたどった薄い金属製の型に三椏やレーヨンなどの繊維を付着(ひっかけ)させ、それを簀(す)や紗(しゃ)に転写してから、地紙に重ねて漉き合わせます。
繊維が乱雑に絡まず、金属板の鋭利な側面に沿って整列するので、輪郭線に光沢感が出るのが特徴です。
ひっかけ紙
墨流し
墨流し紙もさまざまな漉き模様技法の原点の一つです。
水の上に、墨(絵の具)の筆と松脂(まつやに)の筆を交互につけると同心円状に広がります。つぎに息を吹きかけたり扇子で風を送って、同心円を崩しながら模様を作ります。
最後に、和紙を静かにのせて模様を転写します。
墨流し